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鹿児島地方裁判所 昭和58年(ワ)280号 判決 1984年4月02日

原告

田口武

ほか二名

被告

西村喜八郎

主文

被告は、原告田口武、同田口和子に対し各金七七八万〇六〇九円及びうち各金七〇八万〇六〇九円に対する昭和五六年五月三〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は、これを五分し、その四を原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

この判決は第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は原告田口武、同田口和子に対し、各金六二八三万九七七八円及びうち各金六二〇八万九七七八円に対しては昭和五六年五月三〇日より支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を、同田口直子に対し、金五〇〇万円を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  訴外亡田口徹(以下「亡徹」という。)(当時満二〇歳)は、昭和五六年五月一八日午前一〇時五〇分頃自動二輪車(以下「単車」という。)を運転し、鹿児島市武二丁目一二番二〇号先の道路を田上町方面から自宅に向け進行中、反対車線から進行して来た被告運転の軽四輪貨物自動車(以下「加害車両」という。)に衝突され(以下右事故を「本件事故」という。)、多発性骨傷、頭部打撲、DIC急性腎不全、脂肪塞栓症候群、急性呼吸不全等の傷害を受け、その治療のため本件事故発生直後鹿児島市立病院に入院し治療を受けていたが、同月二九日午後二時三五分死亡した。

2  被告は、前記道路を西田町方面から田上町方面に向け時速約四〇キロメートルで進行中、右道路右側の村岡内科駐車場に向け右折して道路を横断するに際し、反対車線には被害者運転の単車等車両が走行してきたのであるから一旦停止し、反対車線通行車両の安全を充分確認してから右折を開始すべき注意義務があるのにこれを怠り、反対車線を走行してくる車両はないものと軽信し、漫然と同一速度で右折を開始した過失により本件事故を発生させた。

また被告は本件事故当時の加害車両の運行供用者である。

3  原告田口武、同田口和子は、亡徹の両親にして右徹の相続人であり、同田口直子は亡徹の妹である。

4  損害額は左のとおりである。

(一) 治療費 金一一六万九七三三円

前記鹿児島市立病院における昭和五六年五月一八日より同月二九日までの一二日間の治療費の総額は金五七三万五六七四円であつたが、治療費については自衛隊の共済保険を利用したため、右金額は自己負担分である。

(二) 付添費 金一二万六〇〇〇円

前記市立病院入院期間一二日間は付添いを必要とし、原告三名が付添い看護した。その費用は、一日一人当り金三五〇〇円が相当であるので計算すると、付添費は金一二万六〇〇〇円となる。

(三) 諸経費 合計金一二一万五六二八円

但し、その内訳は次のとおりである。

(1) 入院諸雑費 金八万一九三三円

但し、前記市立病院入院期間一二日間分の入院諸雑費でねまき等全て亡徹のために購入したものである。その内訳は別紙入院諸雑費一覧表のとおりである。

(2) 診断書料 金六〇〇〇円

但し、二通分。

(3) 輸血に要した諸雑費 金六四万八六九五円

亡徹は、前記市立病院入院中手術等に際し大量の輸血を必要とし、同年五月二〇日から二三日までの間延べ二三二名の供血を受けた。右供血者に対する交通費合計金一一万六三七〇円、食事代合計金九万八七三〇円、御礼代合計金四三万三五九五円の総合計金である。その明細は別紙供血者一覧表記載のとおりである。

(4) 物的損害 金四七万九〇〇〇円

但し、亡徹が本件事故により蒙つた物的損害合計金で、その明細は別紙物的損害一覧表のとおりである。

(四) 葬儀関係費 金二〇〇万八二四二円

亡徹は、前記市立病院にて死亡したのでその遺体を鹿屋市の自宅に移し葬儀を執行した。その明細は別紙葬儀関係一覧表のとおりである。

(五) 逸失利益 金六五八五万九九五四円

亡徹は、昭和三五年八月一五日生まれにして本件事故当時鹿児島大学工学部機械工学第二学科の学生として昭和五四年四月より在学していたものであるところから、逸失利益の算定については、左記のとおり、労働大臣官房統計情報部作成の昭和五五年賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表年齢別きまつて支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額のうち産業計、企業規模計の大学卒の平均賃金額を収入の基礎とし、亡徹の生活費を控除した額に就労可能年数に対応する新ホフマン式係数を乗じて計算すると金六五八五万九九五四円となる。右亡徹の逸失利益は、原告田口武、和子両名が相続により取得した。

(1) 右表の平均賃金のうち「きまつて支給する現金給与額」は月二五万三二〇〇円、「年間賞与その他特別給与額」は金一〇七万〇三〇〇円であるので、年間の収入は金四一〇万八七〇〇円となる。

253,200円×12ケ月+1,070,300円=4,108,700円

(2) 逸失利益の計算資料は、労働大臣官房統計情報部作成の昭和五五年賃金構造基本統計調査報告第一巻によつたが、同調査報告書は昭和五五年六月に実施された分であるところ、賃金の対前年上昇率は平均六・六パーセントで、更に昭和五五年度の対前年上昇率は平均五・四パーセントとなつており、大卒の対前年上昇率をみると昭和五四年度が四・一パーセント、昭和五五年度が六・二パーセントとなつている。

以上の賃金上昇率に鑑み、亡徹は昭和五八年三月に卒業が予定されていたので、昭和五八年度の年間収入を算定するため右(1)の年間収入に、一年間の賃金の対前年度上昇率を平均五パーセント、三ケ年で平均一五パーセント上昇したとして加算すると金四七二万五〇〇五円となる。

4,108,700円×1.15=4,725,005円

(3) 亡徹の父親である原告田口武は、昭和七年一月二〇日生まれにして現在海上自衛隊鹿屋基地に勤務するものであるが、亡徹卒業後間もなく定年退職が予定されているため、亡徹が一家の支柱となることは確定的であるので、生活費の控除の割合は四〇パーセントが相当である。したがつて、一年間の逸失利益は金二八三万五〇〇三円となる。

4,725,005円×(1-0.4)=2,835,003円

(4) 亡徹は、昭和五八年三月二二歳にて卒業し就職するところから、就労可能年数は四五年、対応する新ホフマン係数は二三・二三一であるので逸失利益を計算すると金六五八五万九九五四円となる。

2,835,003円×23.231=65,859,954円

(六) 慰謝料

亡徹本人請求分 金二五〇〇万円

原告田口武、同田口和子請求分 各金二五〇〇万円

原告田口直子請求分 金五〇〇万円

(1) 亡徹の家族構成は、両親である原告田口武、同田口和子両名と妹である原告田口直子の四名家族にして、父親は海上自衛隊鹿屋基地の技術系幹部、妹直子は当時大学生であり、一家四人平和で円満な且つ愛情に満ちた家庭環境であつた。亡徹は当時成人の春を迎えたばかりの大学三年生で、将来を期して大いに張り切つていた矢先の事故死であつた。

将来は父のあとを継ぎ海上自衛隊の技術系幹部又は航空機産業か車両関係の企業への就職を希望しており、大学ゼミナール教官及び同窓生からもその将来を嘱望される前途有望な青年であつた。

亡徹は、本件事故発生直後急性呼吸不全のため気管切開後人工呼吸器による呼吸管理、DICのため急性腎不全となり人工透析、両大腿、下腿骨骨折のため接合手術をそれぞれ受けたが、人工透析中に脳嵌頓を起し死亡したものである。亡徹は事故直後家族の励しの言葉に対し、歯をくいしばり、言葉にならない大きなうめき声を出して苦痛と無念さを訴えており、本件事故によつて蒙つた本人の精神的苦痛並びに将来にかけた希望を断たれた無念さは図り知れない程甚大である。

(2) 手塩にかけて育てあげ、将来を託していた一人息子を一瞬にして失つた原告田口武、同田口和子の精神的苦痛もまた甚大である。特に和子は本件事故後半狂乱状態に陥り、現在も寝たり起きたりの生活を送つている。

(3) 原告田口直子と亡徹とは二人兄妹で極めて仲がよく何事も兄に相談していた。大学も兄のいる鹿児島市内に決めた程で、兄妹でアパートを借りて同居生活し、兄妹仲良く通学を始めたばかりであつた。本件事故により直子の受けた精神的損害は甚大であり、現在も命日は勿論のこと機会ある毎に本件事故現場に行つて花を添え悲嘆にくれている。

(4) よつて、亡徹及び原告らが蒙つた精神的損害は図り知れず、金額に見積り得ないものであるが、その精神的苦痛を慰謝するには、

亡徹本人請求分 金一億円

原告田口武、同田口和子請求分 各金五〇〇〇万円

原告田口直子請求分 金二〇〇〇万円

が相当であるが、そのうち、

亡徹本人請求分 金二五〇〇万円

原告田口武、同田口和子請求分 各金二五〇〇万円

原告田口直子請求分 金五〇〇万円

を慰謝料として請求する。右亡徹本人分の慰謝料請求権は、原告田口武、同田口和子両名が相続により取得した。

(七) 弁護士費用 金一五〇万円

被告は右損害を賠償すべき責任があるにもかかわらず任意の支払に応じないので、原告三名は弁護士に本訴の提起とその追行を委任した。その報酬は金一五〇万円が相当である。右弁護士費用は、原告田口武、同田口和子両名が二分の一ずつ負担する。

(八) 以上により、本件事故に基づく損害合計金は、

原告田口武、同田口和子請求分

合計金一億四六八七万九五五七円

原告田口直子請求分 金五〇〇万円

となるが、原告田口武、同田口和子両名には前項の損害に対し自賠法に基づく強制保険により金二一二〇万円が元本に填補されたので、その残額は金一億二五六七万九五五七円となり、右両名の法定相続分は各二分の一であるところから、右損害のうち各金六二八三万九七七八円(銭以下は切捨)の請求権を有している。

5  よつて、原告らは、被告に対し、自動車損害賠償法三条、不法行為に基づき、原告田口武、同田口和子両名は、各金六二八三万九七七八円及び弁護士費用金一五〇万円の二分の一である金七五万円を除いた金六二〇八万九七七八円に対する亡徹死亡の翌日より支払ずみまで民法所定の年五分の割合による損害金の支払を、原告田口直子は、金五〇〇万円の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、3の事実は認める。

2  同2の事実のうち加害車両の速度がいずれも時速約四〇キロメートルであることは否認し、被告が本件事故当時の加害車両の運行供用者であることは争い、その余は認める。

3  同4の事実のうち

(一) (一)のうち金額は不知、その余は認める。

(二) (二)のうち亡徹の入院期間一二日間は付添いを要したことは認め、原告三名が付添つたことは不知、付添費の一日一人当りの単価及び合計額は争う。

(三) (三)のうち

(1) 冒頭の諸雑費合計額は争う。

(2) (1)の入院諸雑費のうち金額は争い、別紙入院諸雑費一覧表記載の各事実はすべて不知。

(3) (2)は不知。

(4) (3)の輸血に要した諸雑費の合計額は争う。

輸血を要したことは認めるが、その量、供血者の人数等は不知。別紙供血者一覧表記載の各金額は争い、その余はすべて不知。

(5) (4)の物的損害の額は争う。品目は不知。

(四) (四)のうち葬儀関係費の合計額は争う。亡徹が市立病院で死亡したこと及び遺体を鹿屋市の自宅に移して葬儀を執り行つたことは認める。別紙葬儀関係一覧表記載の各事実のうち、葬儀料金四三万六〇〇〇円(番号1)は認め、その余は不知。

(五) (五)のうち逸失利益の総額は争い、亡徹の生年月日、亡徹が死亡時に鹿児島大学工学部の学生であつたこと、原告田口武が海上自衛隊鹿屋基地に勤務すること、逸失利益を原告田口武、同田口和子の両名が相続したことはいずれも認め、徹が機械工学第二学科の学生であつたこと及び昭和五四年四月から在学していたことは不知、その余はすべて争う。

(六) (六)のうち原告らの各請求金額はいずれも争い、亡徹の家族構成が原告ら主張のとおりの四名家族であつたこと、原告田口武が海上自衛隊鹿屋基地に勤務していること、亡徹本人の慰謝料請求権は原告田口武、同田口和子の両名が相続したこと、亡徹の直接の死因が脳嵌頓であつたことはいずれも認め、金額はすべて争い、その余はすべて不知。

(七) (七)のうち被告が原告ら主張の損害額を賠償すべき責任があるのに任意に支払わないとの点は否認し、原告らが弁護士を委任したことは認め、報酬額につき被告が支払うべきであるとの主張は争い(原告らが法外な要求をしたために示談交渉がまとまらず、その結果訴訟になつたものである。)、弁護士費用を原告田口武、同田口和子が負担することは不知。

(八) (八)のうち原告田口武、同田口和子両名に自賠法に基づく強制保険から元本に金二一二〇万円が填補されたことは認め、残額の請求権を主張する点は争う。

三  抗弁

1  別紙葬儀関係一覧表記載の葬儀料金四三万六〇〇〇円は被告において負担した。

2  本件事故発生については亡徹にも左記のとおりの過失があつた。

(一) 本件事故直前亡徹は、片側二車線のうち中央線寄りの車線を単車で蛇行運転をしながら中央線付近を走行して先行する二台の車を追い抜き左側車線にはいつているのであり、乱暴な運転であつたこと。

(二) 本件事故の衝突時に単車は最高制限速度の時速四〇キロメートルを超えた時速約六〇キロメートルで走行していたこと。

(三) 衝突の瞬間に加害車両が単車に加えた力はさほどのものではなく、加害車両が単車に衝突したというよりも単車が加害車両に接触したとも言えること。

(四) 加害車両は衝突時時速一五キロメートルであり、加害車両が右折を開始したとき、単車が、例えば急制動の措置をとるか、加害車両の後方へまわりこむとかして、衝突を避けるため避難しようとすれば可能であつたにもかかわらず、何らの措置をとることなく、かえつて、右折をまさに終ろうとしている加害車両の前面へ強引に割り込んだものであること。更に、単車は中央線付近を走行していたのであるから、中央線付近を直進しておれば加害車両の後方を通過できたこと。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実はすべて否認する。

第三  証拠は、本件口頭弁論調書中の各証拠目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1、3の事実は当事者間に争いがない。

二1  同2のうち加害車両の速度がいずれも時速約四〇キロメートルであること及び被告が本件事故当時、加害車両の運行供用者であることを除く事実は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第七三号証、乙第一号証、第五、第六号証によれば、被告は、加害車両を所有し、これを運転して治療のため病院へ行く途中本件事故を惹起したのであるから、被告は本件事故当時の加害車両の運行供用者であると認められる。

三  同4について検討する。

1  (一)(治療費)の事実のうち金額を除き当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六、第七号証、原告田口武本人の尋問結果によれば、治療費の総額が金五七三万五六七四円であり、自己負担分が金一一六万九七三三円であることが認められる。

2  (二)(付添費)について判断する。

亡徹は、その入院期間(一二日間)中、付添看護を要したことは当事者間に争いがなく、原告田口武本人の尋問結果によれば、亡徹の右入院期間原告三名等が付添つたことが認められる。

ところで、亡徹の付添看護は一人で足り、付添看護費としては一日当り金二五〇〇円が相当であるから、次の算式のとおり、付添看護費は金三万円の限度で認められる。

2,500円×12=30,000円

3  (三)の諸雑費について

(一)  (1)の入院諸雑費について検討するに、原告田口武本人の尋問結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一二ないし第一六号証、同尋問結果によれば、原告ら主張の右(1)の事実が認められる。ところで入院中の諸雑費としては入院一日あたり金一〇〇〇円が相当であるから、亡徹に必要な諸雑費は合計金一万二〇〇〇円となる。

(二)  成立に争いのない甲第一七、第一八号証、原告田口武本人の尋問結果によれば、共済保険の関係で亡徹の診断書が二通必要であつたこと、右二通の診断書料の合計が金六〇〇〇円であることが認められる。

(三)  (3)の事実について判断する。

亡徹が輸血を要したことは当事者間に争いがなく、原告田口武本人の尋問結果によつて真正に成立したものと認められる甲第一九ないし第三九号証、同尋問結果によればその余の事実が認められる。ところで供血者に対する交通費用一一万六三七〇円は本件事故との間に相当因果関係が認められるが、食事代及び御礼代は供血者に対する感謝の気持を現わすためのものであつて、提供された血液と対価関係にあるとは認められないから、本件事故による損害には含まれない。

(四)  (4)の事実について判断するに、原告田口武本人の尋問結果によつて真正に成立したものと認められる甲第四〇、第四一号証、同尋問結果によれば原告ら主張の物的損害一覧表の各品目について損害を受け、右品目の購入時又は新たに購入するとした場合の価格が右一覧表の損害額欄記載の金額であること、単車、ヘルメツト、手袋は昭和五五年一〇月、腕時計、眼鏡は昭和五四年三月にそれぞれ購入されて継続的に使用されてきたことが認められるが、衣服、ブーツについては購入年月日を認めるに足りる証拠はない。昭和四〇年大蔵省令第一五号「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」によると、右各品目の耐用年数は、腕時計一〇年、単車三年、眼鏡、ヘルメツト、手袋については明確な規定はないが、明示されている資産と対比し、三年が相当と認められ、定率法による償却率は、それぞれ二〇・六パーセント、五三・六パーセント、五三・六パーセントと認められる。したがつて、算定不能である衣服、ブーツを除く本件事故当時における右各品目の価格は、次の計算のとおり(円未満は切捨、以下各計算においても同様)、合計金二一万一三七七円と認められる。

35,000円×(1-0.206)2≒22,065円

354,000円×(1-0.536)=164,256円

(36,000+15,000+3,000)円×(1-0.536)=25,056円

(22,065+164,256+25,056)円=211,377円

4  (四)の葬儀関係費について

亡徹が市立病院で死亡したこと、遺体を鹿屋市の自宅に移して葬儀を執り行つたこと及び別紙葬儀関係一覧表番号1の葬儀料が金四三万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

成立に争いのない甲第五四号証、原告田口武本人の尋問結果によつて真正に成立したものと認められる甲第四二ないし第四八号証、第五一ないし第五三号証、同尋問結果によれば、別紙葬儀関係費一覧表番号2ないし6記載の各費用を支出したことが認められる。

ところで、葬儀費としては、後述5において認定する亡徹の年齢、社会的地位等に照らし墓石代等をも考慮して金八〇万円(葬儀料四二万六〇〇〇円を含む。)の限度で認めるのが相当である。

5  (五)の逸失利益について

亡徹は、昭和三五年八月一五日生まれで、死亡当時鹿児島大学工学部の学生であつたこと、原告田口武が海上自衛隊鹿屋基地に勤務することは当事者間に争いがない。

成立に争いがない甲第五五号証、原告田口武本人の尋問結果によれば、亡徹は本件事故当時鹿児島大学工学部機械工学第二学科三年の学生として在学していたものであり、昭和五八年三月に卒業が予定されていたことが認められる。

右事実によれば、亡徹の逸失利益を算定するには、口頭弁論終結時における最新の労働大臣官房統計情報部作成の昭和五七年賃金構造基本統計調査報告第一巻第一表年齢別きまつて支給する現金給与額・所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額のうち産業計・企業規模計の大学卒の平均賃金額を収入の基礎として、亡徹の生活費を控除した額に就労可能年数に対応するライプニツツ係数を乗じて計算するのが相当であり、計算結果は左記のとおりである。

(一)  右表の平均賃金のうち「きまつて支給する現金給与額」は、月二八万一一〇〇円、「年間賞与その他特別給与額」は、金一一八万九四〇〇円であるので、年間収入は、次の算定のとおり、金四五六万二六〇〇円となる。

281,100円×12+1,189,400円=4,562,600円

(二)  原告らは、昭和五八年度の賃金算出に当つては年平均五パーセントの賃金の上昇率を考慮すべき旨主張するが、前記賃金統計の調査対象である昭和五七年六月時点の賃金以後の上昇率を認定するに足りる証拠はなく、原告らの右主張は採用できない。

(三)  原告田口武本人の尋問結果及び弁論の全趣旨によれば、亡徹は本件事故当時独身であつたことが認められることより、亡徹の父原告田口武がまもなく定年退職が予定されていたとしても、亡徹の生活費の控除の割合は五〇パーセントが相当である。したがつて、一年間の逸失利益は金二二八万一三〇〇円となる。

4,562,600円×(1-0.5)=2,281,300円

(四) 前記認定事実によれば、亡徹は、昭和五八年三月二二歳にて卒業し就職することとなるから、就労可能年数は四五年(67年-22年)、対応するライプニツツ係数は一六・一二二(17.981-1.859)であるので、逸失利益は金三六七七万九一一八円と算出される。

2,281,300円×16,122≒36,779,118円

右逸失利益を原告田口武、同田口和子の両名が相続したことは当事者間に争いがない。

6  (六)の慰謝料について

亡徹の家族構成が、両親である原告田口武、同田口和子と妹である原告田口直子の四名家族であつたこと、原告田口武が海上自衛隊鹿屋基地に勤務していること、亡徹の慰謝料請求権を原告田口武、同田口和子の両名が相続したことはいずれも当事者間に争いがない。

以上の全認定事実によれば亡徹の慰謝料は金四〇〇万円、原告田口武、同田口和子両名の慰謝料については各金四〇〇万円が相当であり、民法七一一条に照らし、原告田口直子には慰謝料請求権は認められない。

7  以上の三の1ないし6の損害の合計額は金五一一二万四五九八円となる。

8  原告田口武、同田口和子の両名には自賠法に基づく強制保険により金二一二〇万円が元本に填補されたことは当事者間に争いがない。

四  抗弁

1  抗弁1の事実は、当事者間に争いがない。

2  抗弁2について検討する。

成立に争いのない甲第七三号証、乙第一ないし第三号証、第五、第六号証、証人佐々木澄、同富松義行の各証言によれば、亡徹は、単車を運転して片側二車線の城西通りの中央線付近を田上町方向から西田町方向へ走行しながら、中央線側車線を走つていた乗用車の中央線寄りを通つて追い抜き、さらに左側車線を先行していた二台の車を一気に追い越して左側車線に入つた直後被告運転の加害車両と衝突したこと、右単車の速度は、短い区間に三台の乗用車を追い抜いていること及び加害車両は衝突地点から一・六メートル前進して停止したのに対し、単車は路面に擦過痕を残しながら衝突地点から三七・三メートルの地点に駐車中の普通乗用自動車に衝突し、最初の衝突地点から三七・六メートルの地点まで移動して停止していることからみても最高制限速度の時速四〇キロメートルをかなり上廻る高速であつたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右事実によれば、亡徹にも事故発生の危険性を高め、損害を拡大した意味で過失相殺すべき事情があると認められ、その割合は三〇パーセントが相当である。

したがつて、過失相殺後の損害額を計算すると金三五七八万七二一八円となる。

51,124,598円×(1-0.3)≒35,787,218円

右金額から二の8の強制保険により元本に填補された金二一二〇万円及び三の1の被告において負担した葬儀料四二万六〇〇〇円を差し引くと金一四一六万一二一八円となる。

弁論の全趣旨より亡徹の損害は原告田口武、同田口和子が二分の一ずつ相続したことが認められる。

五  原告らが弁護士を委任したことは当事者間に争いがない。

右弁護士費用としては金一四〇万円が相当であり、弁論の全趣旨によれば右費用は原告田口武、同田口和子が二分の一ずつ負担するものと認められる。

六  以上の事実によれば、原告田口武、同田口和子両名については各金七七八万〇六〇九円の限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求及び原告田口直子の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 猪瀬俊雄 太田幸夫 矢野登喜治)

入院諸雑費一覧表

<省略>

供血者一覧表

<省略>

物的損害一覧表

<省略>

葬儀関係費一覧表(No.1)

<省略>

葬儀関係一覧表(No.2)

<省略>

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